関節リウマチとアミロイドーシスについての詳細 奥田 恭章
はじめに
関節リウマチ(RA)は関節を主座とする慢性の炎症性疾患であるが、経過中に種々の合併症を来たすことが知られている。 RAの合併症の中でも二次性アミロイドーシスは消化管障害や腎障害などの臓器障害を来たし、その予後が不良なことよりきわめて重要な合併症である。 近年のRAの死因に関する報告ではアミロイドーシスの増加が指摘され、その早期よりの診断及び管理はリウマチ臨床医にとってますます重要となってきている。
アミロイドーシスとは
アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常な線維蛋白が臓器の間質に沈着し、機能障害を起こす疾患群である。 アミロイド蛋白は種々の前駆蛋白より誘導されるもので、その分子種により臓器嗜好性に差があるために各々の臨床像は異なるが、
- ヘマトキシリン・エオジン染色に淡染し均質無構造を示す
- アルカリコンゴレッド染色陽性(橙〜赤橙色)で、偏光顕微鏡下で観察すると緑色複屈折を示す
- 電顕下にて幅8〜12nm、長さ50〜1000nmの一対のねじれた細線維の集積を示す
- X線回析像では逆平行βシート構造を示す
- 生理的条件下で非常に難溶性である
等の共通した特徴を有しているものである。
分類
遺伝性の有無、基礎疾患の有無、組織におけるアミロイド沈着の分布、染色性等をもとにこれまで臨床的に分類されてきたが、 10種類をこえる 生化学的に異なったアミロイド蛋白にもとづいた分類もなされている。このうちRAに合併する アミロイドーシスは反応性(二次性)アミロイドーシスでアミロイド蛋白はAA(AmyloidA)である。
原因と疾患感受性
AA蛋白は前駆蛋白serum amyloid A(SAA)から形成される。AA蛋白はSAAのN末端側約2/3に相当する。 SAAは104個のアミノ酸からなる鋭敏な急性期蛋白でCRPと同じgene familyに属し、急性炎症時に血中に急上昇する。 SAAには遺伝子多型があり、産生蛋白としてはSAA1、SAA2、SAA4に大別される(SAA3はpseudogene)。 SAA1、SAA2は急性炎症時に上昇し急性期SAAと呼ばれており、一方、SAA4はHDLの構造蛋白で急性期にも極軽度の増加を示すのみである。 そして、AA蛋白の前駆蛋白となるSAAは、SAA1とSAA2であり、さらに人のアミロイド沈着においてはSAA1に由来するものが優位(90%以上)である。 RAをはじめとするリウマチ性疾患ではSAAが高濃度で長期間血中に存在することが多く、このことがアミロイドーシス発症の大きな要因となっている。 一方、SAAの分解障害(異化障害)やAA沈着の足場となるグリコサミノグリカン(GAG)やAAの周囲に沈着し安定化に関与する物質(serum amyloid P(SAP)、Apo AU、Apo E、など)の動態もアミロイド発症に関与していると考えられる。
SAA1は遺伝子多型からさらに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5の5つのアリルに、SAA2は2.1、2.2の2つのアリルに細分化される。 このうち、SAA2は遺伝子多型による疾患感受性に差異は認めない。一方、SAA1遺伝子は4つのexonから構成されるが、 主な蛋白部分での一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)はexon3に存在し、このSNPの相違により遺伝的疾患感受性が生じる。 すなわち、SAA1.1はAAアミロイドーシス発症に防御的に働き、SAA1.3は促進的に働く傾向があることが日本人において明らかとなっている。 RAにおける他のAAアミロイドーシス疾患感受性については、従来はリウマチ反応陰性、男性などが感受性を有すると報告されたが、 最近の多数例の検討では明らかに否定的である。当院でのアミロイドーシス合併RAの検討では91%はseropositiveであり、 男女比は、1:12.2と女性が有意に多い。
頻度
RA患者4175例に対する胃十二指腸生検スクリーニングでの新規アミロイドーシス陽性率は6.6%であり、従来のprospective studyでの検討も合わせて、生検診断によるアミロイドーシスの頻度はほぼ5-10%前後であると考えられる。
診断
診断については罹病期間の長いRA症例に腎、消化管等の臨床症状を認めた時はアミロイドーシスを疑い積極的に生検を行うことがまず重要である。
病理診断は生検した組織をコンゴーレッド染色し(橙色に染まる)、偏光顕微鏡下に緑色複屈折性を確認する。
AA蛋白の証明は、コンゴーレッド染色の前に過マンガン酸処理を行い染色性が失うことを確認するか、抗AA抗体による免疫組織染色を行う。
生検部位は感度、簡便性等を考慮し、胃・十二指腸、大腸、腎、皮下脂肪、小唾液腺等から適切な部位を選択し施行する。
我々は現在、アミロイドーシスの早期診断を目的にRA患者に対して上部消化管内視鏡による胃・十二指腸生検をスクリーニング的に行っている。消化管は二次性アミロイドーシスの主なtarget
organであって、検出感度がすぐれており、NSAIDSなどによる胃粘膜障害などのスクリーニングにも適しており、本検査の有用性は高い。
臓器症状および検査所見
腎臓−AAアミロイドーシスにおいて消化管とともにもっとも症状が発現しやすい臓器であり、RAの経過中に蛋白尿または血尿が認められたときは常にアミロイドーシスの可能性を考える必要がある。
蛋白尿はネフローゼを来たすものから軽微なものまでさまざまであるが、組織にて糸球体へのアミロイド蛋白の沈着が高度な例はより大量のタンパク尿を生じやすく、
一方、血管壁優位にアミロイドが沈着する例はタンパク尿が軽微であっても腎機能低下が高度な例が多いとされている。
腎臓のサイズは腫大するとされているが、正常サイズや、進行すると正常より縮小することも多い。
消化管ー初発症状となることが多く、RAの経過中に原因不明の難治性下痢や腹部膨満、食欲低下が見られたときは常にアミロイドーシスを疑う必要がある。
病態は消化管へのアミロイド蛋白の沈着により、消化管機能低下(蠕動運動低下)及び吸収不良を来たし、嘔気、嘔吐、下痢、低タンパク血症などを来たす。
内視鏡所見では、びらん、潰瘍、粘膜の脆弱化・粗造化、粘膜の微細〜ポリープ状隆起などの所見を認めるが、沈着が軽度の例は異常所見を認めないことも多い。
循環器ーALアミロイドーシスでは心アミロイドは必発であり、拘束型心筋症を来たしやすく死因としてもっとも重要であるのに対して、
AAアミロイドーシスは心臓への沈着は少量かつ血管周囲に限られることが多く、重篤な心病変を来たすことは少ない。高血圧が認められることはしばしばであるが、
低血圧はほとんど見られない。
その他ー内分泌器官への沈着が認められる ことがある。甲状腺への沈着により甲状腺機能低下症を生じたり、
副腎への沈着により 副腎機能低下を来たすことがあり注意深い観察が必要である。肝や脾にも
高率に沈着するがなんらかの臨床症状を来たすのはまれである。
また、筋、骨格系への沈着はAAアミロイドーシスではほとんど認められていない。
治療
1.アミロイドーシスの進行を阻止する治療
AAアミロイドーシスの治療は、AA蛋白の前駆物質であるSAAの産生をできるだけ抑えることが合理的な治療法であると考えられる。 したがって、RAの場合は、関節炎の活動性をできるだけ抑えることが重要である。DMARDS併用療法、 高用量メトトレキサート、プログラフ、アザチオプリン、サイクロフォスファマイドなどを用い、 個々の症例に応じて強力な免疫抑制療法を行う。また、抗TNFα療法はSAAやCRPなどの炎症マーカーとRA活動性を強力に抑えるため、 AAアミロイドーシスに対する有用性が報告されており、治療効果が期待できる。Gottenbergらは、 炎症性関節炎に合併したAAアミロイドーシス15例の腎障害に対する抗TNFα療法(インフリキシマブ10例、 エタネルセプト4例、両方使用1例)の評価を行い、それぞれ、蛋白尿減少またはGFR上昇;3例、腎障害進行なし;5例、 腎機能悪化または進行;7例に認めたとしており、腎障害を認める進行例にも半数以上で有効であったことを報告している。 さらに2008年4月に承認された抗IL-6レセプター抗体療法(トシリズマブ=アクテムラ)は、SAA抑制効果はさらに強力で適応症例では 今後のAAアミロイドーシス治療の主流になる可能性が高いと思われる。ただし、強力な免疫抑制療法を行うと、 臓器障害が進行し低蛋白、低アルブミン血症を来している例では、日和見感染などの副作用が出現しやすい。 免疫抑制療法の副作用からの感染によるSAA上昇がアミロイドーシスによる臓器障害を進行させる可能性もあり、 感染症に対する予防投与を行うなど注意深く治療を行う必要がある。臓器障害や種々の問題点から十分な免疫調整剤、 免疫抑制剤や抗サイトカイン療法を使えない時は、中等量のステロイド(プレドニゾロン10-20mg)を使用する。 しかし、できれば臓器障害がほとんどない早期にアミロイドーシスの診断を行い、強力な関節炎に対する治療を行ってゆくのがもってとも合理的である。 また、有機溶媒であるジメチルスフォキサイド(DMSO)は蛋白凝集阻止作用および、 組織に沈着したアミロイドの溶解度を高めることにより除去することを目的にしばしば投与される。 対照比較試験の証明はされていないが、有用性を示唆する症例集積報告はしばしば見られる。
2.臓器障害に対する補助療法
腎障害例は、高血圧の厳格なコントロール、蛋白及び塩分制限等が重要である。
腎不全進行例は透析療法を必要とするが、この時期にはアミロイドによる多臓器障害を生じているため、心及び脳血管障害、消化管障害、感染症等を来たすことが多く予後不良である。したがって、透析の導入は他疾患による腎不全より早期に行うべきである。
重篤な消化管障害として、難治性下痢、麻痺性イレウス、下血(虚血性腸炎や消化管穿孔) 等を来たすことがある。難治性下痢に対してはIVHにて腸管の安静をはかり、 感染に注意しながら中等量ステロイド剤にて加療を行い、全身及び腸管の炎症を軽減させる。
麻痺性イレウスもIVHにて消化管の安静をはかり、低タンパク血症など全身状態の改善を行いながら、消化管機能調整剤や中等量ステロイド剤の投与を行う。
下血に対しては内視鏡検査などで病態を把握し、外科的治療の適応を考慮しながら腸管の安静、輸血等の加療を行うようにする。
3.アミロイドーシスと関節手術
アミロイドーシスは進行期RAの合併症であるために、関節機能再建手術が適応となる症例がしばしば認められる。
アミロイド症例の手術にあたっては、手術ストレスにて急性期反応物質であるSAAが急激に上昇しアミロイドの沈着が
進行する可能性があること及び副腎へのアミロイド沈着が約1/4の症例に認められ、副腎不全を来たしやすい点から手術前後には充分なステロイ
ドカバーを行うことが重要である。
また、血管周囲へのアミロイド沈着により出血量の増加やそれに伴う臓器虚血が生じやすく、
術中及び術後には輸液、輸血を適切に行い、循環動態の変動を最小限にすることが重要である。
予後
AAアミロイドーシスの予後は悪く、従来の他施設の報告では50%生存率は2-4年となっている。 道後温泉病院リウマチセンターの2008年12月の時点におけるAAアミロイドーシス合併RA396例の5年生存率は64.1%、 10年生存率は48.9%であり、他施設の報告よりも予後良好である。その理由は胃十二指腸生検を積極的に施行することにより 臓器障害が軽度の早期段階で診断がなされている症例が多いためと考えられた。AAアミロイドーシスのprognostic factorとしては、血清クレアチニン上昇や腎障害、高度の消化管障害が特に重要である。死因としては、腎不全、感染症が多いのが特徴である。
参考文献
- ・Yamada T:Serum Amyloid A(SAA):a concise review of biology, assay methods and clinical usefulness. Clin Chem Lab Med,37:381-388,1999
- ・奥田恭章他:慢性関節リウマチに合併した二次性アミロイドーシスにおける SAA1 ,SAA2,アポリポ蛋白Eの遺伝多型と疾患感受性の検討 リウマチ 39 :3-10、 1999
- ・奥田恭章他:アミロイドーシス合併 RAの診断と予後 リウマチ科 21:460ー465、 1999
- ・奥田恭章他:RAに合併した二次性アミロイドーシスの診断と管理指針.厚生省慢性関節リウマチ調査研究班平成7年度研究報告書:208-210、1997>
- ・Okuda Y et al: Intractable diarrhoea associated with secondary amyloidosis in rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 56:535-541, 1997
- ・Gottenberg JE et al:Anti-tumor necrosis α therapy in fifteen patients with AA amyloidosis secondary to inflammatory arthritides. Arthritis Rheum 48: 2019-2024, 2003
- ・奥田恭章他:関節リウマチとAAアミロイドーシス アミロイドーシスの基礎と臨床 金原出版:91−97,2005
- ・Okuda Y et al: Successful use of a humanized anti-Interleukin-6 receptor antibody, Tocilizumab, to treat amyloid A amyloidosis complicating juvenile idiopathic arthritis. Arthritis Rheum 54:2997-3000,2006
- ・奥田恭章:AAアミロイドーシス リウマチ科 41:357-365,2009